田舎の古い一軒家

狭く、過酷な山道を抜けて、ようやく購入を検討している一軒家のある町にたどり着きました。最初は豊かな自然に感動しましたが、ここで実際に生活することを考えると、すこし不安になってしまいました。

本当に、何もないのです。電車が通っている様子もありませんし、バス停も見当たりません。民家はところどころにありますが、日常品を売っているようなスーパーやコンビニすら視界に入りません。周りは田んぼばかりで見晴らしはとても良いので、ここで視界に入らない、ということは、まさに何もない町である、ということを意味します。

どうやって生活する?イメージができない

「この辺に日用品を売っているようなお店ってあります?」

見わたす限り、何もなさそうな田舎の景色を眺めながら、念のため不動産会社の担当者に訊いてみました。

「歩いて行ける範囲にはないですね。車で30分ほど走ったところにスーパーがあります。そのさらに15分ほど走ったらコンビニとホームセンターがありますよ。」

ちょっとした買い物をするにも往復で30分…思わず溜息が漏れました。

東京のマンションの近くにはいくつものお店が立ち並んでいましたので、毎日でも買い物ができました。しかし、往復で1時間かかるとなれば、ある程度まとめ買いをしておく必要があるでしょう。妻の顔にも不安が見られました。

「病院なんかはあるんでしょうか?」

息子は小児性のぜんそく持ちで、定期的に病院に通う必要がありました。

「町の外れに、小児科と内科の個人病院があります。外科なんかについては山を超えて2時間位のところに総合病院がありますよ。急患の時はヘリで行くこともできます。」

病院に行くのにヘリ!まるで想像できませんでした。そんな話を聞くと、ますますこの街で暮らせるのか不安になってしまいました。 そんな話をしていると、目的の家に到着しました。

座敷でタヌキがくつろぐ家

築年数の割に外観はそれほど古くはありませんでした。田舎にありがちな和風建築の2階建てです。 庭も広く、手入れされていませんので雑草が伸びていますが、草刈をすればすぐに整備できそうでした。

さっそく、案内されて家の中に入ります。玄関も廊下も広く、東京のアパートとは比較になりません。それだけで、多少不便でもここで暮らしたい!と思ったほどです。しかし、廊下から部屋に入った時、信じられないものを見てしまいました。 なんと、大きなタヌキが寝ていたのです。

「昨日、お客さんが来られるって言うから風遠しのために窓開けてたんですよね。その間に入ったんでしょう。」

担当者は落ち着いた口調で言うと、窓を開けてタヌキを追い払いました。

「タヌキが出るんですか?」

「タヌキだけじゃなくて、シカ、イノシシ、イタチ、いろいろいますよ。さすがにシカやイノシシが部屋に入り込んでくることはありませんから心配ないです。」

窓を開けただけで勝手に野生動物が入ってくる家…そんな中で生活できるのだろうか…また不安になりました。妻も心配そうな顔をしています。 その時、子供の嬉しそうな声が響きました。

「シカもイノシシも!?見たい!見たい!」

その声を聞いて、私はやはりこの家を買って暮らそう、と決心しました。妻も同じ気持ちなのか、すぐに柔らかい表情になっていました。

Copyright© ~スローライフをはじめよう~ All Rights Reserved.